たった一人の「食べられない」から始まった。京都に100%グルテンフリー&ヴィーガンホテルが 生まれるまで
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2026年8月、京都・梅小路に全4室の宿「UNO RETREAT Kyoto Gluten Free & Vegan Hotel」が誕生した。朝食や客室内のフード、ドリンクまで、滞在中の食環境をグルテンフリー&ヴィーガンで整えた京町家のホテルだ。
なぜ、飲食店ではなく、宿泊空間そのものをつくる必要があったのか。その原点をたどると、17年前のクリスマスに出会った、23種類の食物アレルギーを持つ一人の男の子に行き着く。そこで生まれた「Food Without Barriers.=食のバリアをなくす」という思いは、現在のホテル全体に貫かれている。
始まりは 京都の豆腐文化を生かした菓子づくり
UNO RETREAT Kyotoを手がけた鵜野友紀子さんは、生まれも育ちも京都。もともとは和食の料理人として修業し、その後パティシエへ転身した。2006年10月、京都・一乗寺でケーキ店を開いた当時から、鵜野さんの根底には「京都の和素材を使ったスイーツをつくりたい」という思いがあった。
UNO RETREAT Kyoto 代表 鵜野友紀子 氏
注目したのは、京都で長く受け継がれてきた豆腐文化だった。豆腐から豆乳へと発想を広げ、豆乳を使った菓子づくりに取り組んだ。現在につながるグルテンフリーやヴィーガンという言葉を、最初から掲げていたわけではない。京都の食文化を自分なりの菓子で表現しようとしたことが、最初の一歩だった。
23種類のアレルギーを持つ男の子が教えてくれたこと
店の開業から3年ほどたった、クリスマス直前の12月21日。鵜野さんのもとに、23種類の食物アレルギーを持つ男の子のためにケーキをつくってほしいという依頼が届いた。クリスマスケーキの製造が佳境を迎える時期で、新たな注文を受けられる余裕はほとんどなかった。それでも鵜野さんは、「一人分くらい、つくってあげてもいいのではないか」と依頼を引き受けた。
食べられる材料を一つずつ確認し、完成させたケーキ。男の子は「ケーキだ」と声を上げ、「おいしい」と喜んだ。ところが、その言葉を聞いた鵜野さんの胸に浮かんだのは、達成感だけではなかった。
「本当においしいと思ってくれたのだろうか。食べられる材料を組み合わせただけで、甘くて硬いケーキになっていました。お菓子は本来、幸せを届けるもの。もっとおいしいものをつくってあげたいと思ったんです」
「ミラクルケーキ」
食べられることをゴールにせず、誰もが心からおいしいと思えるものをつくる。その問いと向き合い続け、鵜野さんは約7年をかけて、卵や乳製品などに頼らない「ミラクルケーキ」を完成させた。鵜野さん自身が「人生が変わった瞬間」と振り返る出会いだった。
海外のお客様との会話から見えた 世界の食の課題
約10年前、京都を訪れる海外旅行者が増え始めた頃、店を訪れたお客様から「あなたのスイーツはグルテンフリーでヴィーガンなのね」と声をかけられた。鵜野さんにとって、それまで意識していなかった言葉との出会いだった。
調べていくと、食物アレルギーだけではなく、宗教上の理由、セリアック病、ヴィーガンという生き方など、世界にはさまざまな理由で食を選ぶ人がいることが分かった。一方、京都には豆腐や湯葉、野菜、味噌をはじめ、植物性の食材を生かしてきた文化がある。京都の食文化を、食の制限がある人にも楽しんでもらう方法があるのではないか。そうした考えからラーメンを開発し、2022年にはグルテンフリー&ヴィーガンのラーメン店を開いた。.jpg)
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ヴィーガンラーメンの他に、手巻き寿司などの用意も
店舗に立ち、国内外のお客様と会話を重ねる中で、次の課題も見えてきた。ある旅行者は、5つ星ホテルに泊まりながら、朝食ビュッフェを利用していないと話した。料理そのものに対応メニューがあっても、共用のトングや隣り合う料理からの混入が心配で、安心して食べられないというのだ。
食事を探し続ける旅から 解放される場所を
旅行では、食事を避けて通ることができない。目的地まで移動できても、安心して食べられる店が宿泊先から遠ければ、毎食のたびに移動し、原材料や調理環境を確認し続けることになる。本人だけでなく、一緒に旅をする家族や友人、パートナーにとっても負担になる。
「グルテンフリーやヴィーガンのお店はあっても、ホテルにはほとんどない。旅先で食事を探すストレスから解放される環境を、いつかつくりたいと思いました」
当初は民泊のような小さな形を思い描いていたという。転機になったのが、梅小路に残る京町家との出会いだった。かつて昆布商を営んでいた建物は、既存の骨組みを生かしながら現代の暮らしに合わせて改修され、和紙や畳など本物の素材が随所に用いられていた。コロナ禍を挟み、ほとんど使われないまま残っていたその空間を、鵜野さんたちが宿として引き継いだ。
うなぎの寝床
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建物との出会いから開業までは、およそ半年。引き渡し後の実質的な準備期間は約2か月だった。ホテル運営は初めての挑戦だったが、株式会社STAY KYOTOの協力を得ながら、鵜野さんが思い描く食の環境を一つずつ形にしていった。
対応メニューではなく 空間全体を100%にする
UNO RETREAT Kyotoが掲げるのは、「Food Without Barriers.=食のバリアをなくす」。目指したのは、一部のメニューだけをグルテンフリーやヴィーガンにすることではない。朝食、客室内のフードやドリンクを含め、施設の中で提供するものを同じ基準で整え、宿泊者が原材料表示を一つずつ確認しなくても過ごせる環境をつくることだった。グルテンを含む食品や飲料の持ち込みを控えてもらう方針も、その環境を守るために設けている。
UNO RETREAT Kyotoは、GFFP(Gluten-Free Food Program)の「Gluten-Free Destination Certification」と、ベジプロジェクトジャパンのヴィーガン認証を取得している。対象は一部のメニューにとどまらない。食材、仕入れ、保管、調理、清掃、スタッフ教育、館内で提供する飲食物など、ホテル全体の運用をグルテンフリー&ヴィーガンの基準に沿って整えている。第三者認証を取得していることが、この宿の大きな特徴だ。
ただし、これらの認証は、すべての食物アレルギーへの対応を保証するものではない。23種類の食物アレルギーを持つ男の子との出会いは「食のバリアをなくしたい」という活動の原点であり、現在の施設が対応する範囲とは分けて捉える必要がある。
そして、ここは食の制限がある人だけの施設ではない。食の制限がない家族や友人も、同じ料理を一緒に楽しめることが大切だ。誰か一人のために全員が我慢するのではなく、誰もが「おいしい」と感じられる食卓をつくる。その考え方は、17年前のケーキづくりから変わっていないという。
京都の朝を 部屋から始める
旅の記憶をつくるのは、観光名所だけではない。朝起きて、その土地の素材に触れ、自分の手で食事を整える時間もまた、その場所でしか得られない体験になる。
朝食は、カウンターで
UNO RETREAT Kyotoの朝食では、宿泊者が無添加の豆腐をつくり、味噌を溶いて味噌汁を仕上げる。ご飯は釜でふっくらと炊き上げ、ヴィーガンバターと昆布、無添加の漬物を添える。用意された料理を受け取るだけではなく、手を動かしながら一食の和食を完成させる体験だ。.jpg)
炊きたてのご飯。お米が立っていて美しい
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ヴィーガンバターと昆布の組み合わせ、感動するおいしさ

こだわりの豆乳とにがりで作る、完全無添加の味わいお豆腐
豆乳が豆腐へと変わっていく様子を見て、味噌の香りを確かめながら椀を整え、炊きたてのご飯をよそう。京都で受け継がれてきた日々の食を、自分の感覚を使って味わう。グルテンフリー&ヴィーガンという安心の先に、旅先で食文化に参加する楽しさが用意されている。.jpg)

お味噌を作る体験も
館内には、京都の職人仕事も息づく。小嶋商店の提灯、畳屋が仕立てた畳、和紙を使った扉。受け継がれてきた柱や梁と現代の意匠が重なり、京町家に泊まる意味をつくっている。
障子の光
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小嶋商店の提灯
機能としての「対応」にとどまらず、味や器、空間を含めて滞在の価値をつくることは、鵜野さんが飲食店でも大切にしてきた姿勢だ。.jpg)
快適性も、食の安心と同じように細部まで考えられている。アメニティには、日本の植物を生かしたライフスタイルブランド「Waphyto」を採用。.jpg)
さらに乾燥機付き洗濯機を各部屋に備え、数日間の京都滞在にも対応する。食事を探すために街を行き来する負担を減らすだけでなく、宿を拠点に自分のペースで旅を楽しめる環境が整えられている。
梅小路は京都駅から一駅でありながら、広い公園や鉄道博物館があり、中心部とは異なる静けさが残る。大きな荷物を持つ旅行者がアクセスしやすく、京都を拠点に各地を巡る連泊にも向く。全4室という小さな規模だからこそ、一人ひとりに丁寧に向き合いながら、新しい宿泊体験を育てていく。
100人のうち たった一人のヒーローになりたい
食の課題を抱える人は、市場全体の数字では小さく見えるかもしれない。しかし、一人の周りには家族や友人、パートナーがいる。安心して食べられる選択肢が一つ増えることで、その人たちの旅も変わる。
「大手企業から見れば小さな市場かもしれません。でも私は、100人いたら、そのうちたった一人のヒーローになりたいと思ってケーキをつくりました。その一人には家族や兄弟、パートナーがいる。決して一人だけの話ではないんです」
現在、鵜野さんは京都の菓子店やラーメン店に加え、駅や海外のポップアップなど、食の選択肢が少ない場所へ活動を広げている。目指しているのは、グルテンフリーやヴィーガンを特別なものとして切り分けることではなく、食べる人を選ばず、おいしいものとして自然に手に取れる環境だ。UNO RETREAT Kyotoは、その未来を宿泊という形で示す拠点でもある。
一人の男の子のためにつくったクリスマスケーキから、京都を訪れる世界中の人を迎えるホテルへ。鵜野さんが見据えるのは、UNO RETREAT Kyotoだけにとどまらず、「食の制限があっても、旅や食事を諦めなくていい環境」を世界へ広げていく未来だ。「食べられないもの」ではなく、「一緒に食べられる可能性」に目を向けてきた約17年の歩みが、京都から次の場所へとつながり始めている。
施設情報 UNO RETREAT Kyoto Gluten Free & Vegan Hotel
開業:2026年8月1日
所在地:〒600-8845 京都府京都市下京区朱雀北ノ口町41番地2
客室:全4室
特徴
朝食、客室内フード、ドリンクなどをグルテンフリー&ヴィーガンの基準で用意。GFFPの「Gluten-Free Destination Certification」と、ベジプロジェクトジャパンのヴィーガン認証を取得。各室に乾燥機付き洗濯機を完備
https://unoretreat.com/ja/
