ヴィーガンレザーとは?次世代素材が変えるファッションの未来と市場予測
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※本記事では動物由来素材に関する内容を含みます。動物福祉や多様な価値観に配慮し、敬意をもって解説しています。
私たちが選ぶ「素材」は、未来への意思表示かもしれない
動物福祉や環境への関心が世界的に高まるなか、日常の選択を大切にする人が増えています。なかでもファッションは、個人の価値観が反映されやすい領域のひとつです。これまで革製品は耐久性や美しさから長く支持されてきました。一方で近年は、素材の背景にある環境負荷や倫理性にも注目が集まっています。そうした流れの中で存在感を高めているのが「ヴィーガンレザー」です。ヴィーガンは特別な選択ではなく、数あるライフスタイルの一つ。そしてヴィーガンレザーは、その価値観を支える素材としてだけでなく、次世代の産業基盤になり得る可能性を秘めています。この記事では、ヴィーガンレザーの基礎知識から最新技術、市場動向、そして未来予測までをわかりやすく解説します。
ヴィーガンレザーとは?
ヴィーガンレザーとは、動物の皮を使用せずに革のような質感や機能性を再現した素材を指します。従来は主に「ポリウレタン(PU)」「PVCなどの合成素材」「コルクなど植物由来素材」が使用されていました。近年では、さらに技術が進化し、農業副産物や微生物を活用した素材も登場しています。ポイントは、ヴィーガンレザーが単なる「代替品」ではなく、素材のあり方そのものを再定義し始めている点です。いま、革は「作るもの」から「設計するもの」へと変わりつつあります。
▼過去記事▼
ヴィーガンレザーの世界も広がる? レザーに代わる生分解可能な100%植物性の循環型新素材 “EUMIS skin”
https://vegans-life.jp/article/78fdnzsy_6o
【ヴーヴ・クリコ×ステラ マッカートニー】シャンパーニュ造りで廃棄されるブドウを原材料とした革新的なヴィーガンレザーを共同開発
https://vegans-life.jp/article/cqf70kazmm
2022年「ヴィーガンレザーの認知度」は?
https://vegans-life.jp/article/sjzjr-pqqc61
なぜいま注目されているのか
素材の背景まで意識する時代へ
消費行動は大きく変化しています。価格やデザインだけでなく、「どこで作られたのか」「何から作られているのか」「社会にどんな影響を与えるのか」といった視点を重視する人が増えています。ファッション業界は世界の温室効果ガス排出量の約3〜8%を占めると推定されており、素材選びは重要なテーマになっています。こうした背景から、環境や倫理に配慮した素材への関心が急速に高まっていると言われています。ヴィーガンレザーも、その流れの中で進化を続けています。
「ヴィーガンレザー=完全に環境に優しい」ではない理由
ヴィーガンレザーは、環境や倫理に配慮した選択肢として注目されています。しかし、すべてのヴィーガンレザーが同じ特性を持つわけではありません。初期の製品の中には石油由来の原料から作られたものもあり、耐久性に優れる一方で、環境負荷の観点では課題が指摘されることもありました。現在は研究開発が進み、植物由来原料や微生物を活用した、より持続可能性を重視する素材が次々と登場しています。つまりヴィーガンレザーは、「完成された素材」というよりも、よりよい未来に向けて進化を続けている素材だと言えるのではないでしょうか。
レザーは「育てる」時代へ
次世代素材として注目されているのが、微生物の働きを活用したバイオマテリアルです。
例えばインドネシアの研究企業が開発する素材「M-Tex」は、コーヒー生産時に発生する外皮を栄養源として発酵させ、セルロースナノファイバーを生成。数週間かけて耐久性のあるシートを形成し、革素材へと加工されます。
この素材は100%ヴィーガンかつクルエルティフリーでありながら、プレミアムレザーに匹敵する強度と質感を備えているとされています。
次世代素材はすでに動き出している──津南醸造の取り組み

こうした革新は研究段階にとどまりません。実装フェーズへと移行し始めています。日本酒を製造する酒蔵として知られる津南醸造は、インドネシア・バンドンにあるバイオマテリアル研究企業「Bell Living Lab」を訪問し、バイオ技術においてのものづくりや循環型経済の未来について議論しました。同施設では、コーヒーチェリーパルプ(果実の外皮)を廃棄物ではなく「栄養源」として活用しています。
コーヒーパルプの乾燥物

コーヒーパルプを発酵させるための前処理プロセス
腐敗過程で温室効果ガスを排出する可能性のある副産物を再利用することで、環境負荷と農業廃棄物処理という課題の同時解決を目指しています。
シート形成のための発酵プロセス

発酵によって得られたコーヒーパルプ由来のシート
さらに原料を地元農家から回収することで埋立処分を防ぎ、農業コミュニティに新たな収益源をもたらす仕組みも構築されています。微生物を活用した生産技術という点では、日本酒造りと素材開発の間に共通性も見出され、温度や湿度、pHを高精度で管理することで生産速度や品質の均一化につながる可能性についても議論されました。この取り組みは、環境負荷の低減だけでなく地域経済にも利益をもたらす循環型の素材開発モデルとして注目されています。
左から津南醸造の食用米日本酒『GO LUNAR』、グリーン日本酒、Bell Living Labの製品
「M-Tex(インドネシアの研究企業が開発する素材)」生産に関する独自プロセス
原料準備(Feedstock Preparation)
コーヒーパルプを地元農家から回収し、埋立処分を防止することで、農業コミュニティに新たな収益源をもたらす。
細菌発酵(Bacterial Fermentation)
パルプを栄養豊富な培地へと加工し、Acetobacter xylinum に類似した特定菌株を投入。菌が糖を代謝し、高純度セルロースナノファイバーを生成する。
シート形成(Sheet Formation)
数週間かけて、ナノファイバーが液面上で絡み合い、厚く耐久性のあるマット(ペリクル)を形成。これがレザーの原材料となる。
仕上げ工程(Finishing)
セルロースシートを回収・洗浄・乾燥し、天然由来の処方で処理することで、高級ファッションやインテリア用途に求められる質感・色・耐久性を実現する。
ヴィーガンレザーが乗り越えるべき課題とは
革新的な素材として期待が高まるヴィーガンレザーですが、普及に向けてはいくつかの課題も存在します。生産のスケール化、品質の安定、そしてコスト——これらは新しい素材が社会に広く受け入れられるまでに、多くの場合避けて通れないプロセスです。
しかし、技術は常に進化し続けるものです。かつて高価だった太陽光発電や電気自動車が、いまでは現実的な選択肢となりつつあるように、新素材もまた改良を重ねながら社会に定着していきます。企業の研究開発だけでなく、素材の背景まで意識して選ぶ消費者の存在も、この進化を後押ししています。
ヴィーガンレザーはまだ完成形ではないからこそ、伸びしろのある素材です。試行錯誤の先にどのようなスタンダードが生まれるのか——その変化を見守ることも、これからの素材と向き合う楽しみのひとつと言えるのではないでしょうか。
素材がブランドを語る時代へ
これまでブランド価値は、デザインや機能性によって語られることが一般的でした。しかし今、その評価軸は静かに変化し始めています。これからの時代、ブランドは「何を作るか」だけでなく、「何から作られているのか」によっても語られるようになるでしょう。素材は単なる機能ではありません。そこには環境への配慮や技術革新、そして社会とどのように向き合うのかという企業の姿勢が映し出されます。言い換えれば、素材はブランドの思想そのものです。
そして消費者もまた、その変化を敏感に感じ取っています。背景にあるストーリーまで含めて選ぶ——そんな購買行動は、すでに特別なものではなくなりつつあります。素材を選ぶことは、未来を選ぶこと。その価値観はこれから、ブランドと消費者の関係をより深く結びつけていくのかもしれません。
ヴィーガンレザーは「素材革命」の入口に立っている
ヴィーガンレザーの本質は、単に動物由来の素材を使用しないという点にとどまりません。そこには、廃棄物を新たな資源へと循環させる技術、環境負荷を軽減する設計、そして微生物の力を活用したバイオテクノロジーといった、これからの社会を支える重要な要素が凝縮されています。素材は、ただ製品を形づくるためのものではありません。どのような未来を選びたいのか——その意思までも映し出します。いま、素材の歴史における大きな転換点に立っているのではないでしょうか。ヴィーガンレザーは、その変化の入口にある存在なのかもしれません。レザーを「消費する資源」としてではなく、「育て、循環させる素材」として捉える視点は、これからのものづくりのスタンダードになっていく可能性があると思っています。



