うどんは小麦でなければならないのか。香川発「by age 18」が問い直す、食文化の未来

公開日: 2026.8.25

インタビュー

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香川のうどんといえば、小麦からつくるコシのある麺と、いりこの風味をきかせただし。その組み合わせは、長く親しまれてきた讃岐うどんの姿だ。けれど、その「当たり前」の外側にいる人たちがいる。

小麦を食べられない人。動物性食品を避けている人。アレルギーや宗教上の理由で、食べられるものに制約がある人。地域を代表する料理であっても、誰もが楽しめるわけではない。そんな現実に向き合い、香川の食文化を新しい形で提案しているのが「by age 18(バイエイジエイティーン)」だ。


米粉でつくったグルテンフリーの麺に、動物性素材を使わないだし。瀬戸内の景色を望む場所で生まれたその一杯には、単なる代替食では終わらない構想が込められている。

息子さんのアレルギーが変えた、食への視点

「by age 18」を手がける村上モリロウさんは、もともとクリエイティブディレクターとして活動してきた。

株式会社人生は上々だ 代表 村上モリロウ 氏


香川を代表する讃岐うどんを、もう一度違う角度から捉え直せないか。そんな構想を抱いていた村上さんにとって、息子さんの食物アレルギーは、食のあり方を見つめ直す大きなきっかけになった。乳製品や卵、牛肉にアレルギーがある息子さんと過ごすなかで、日々の食事や外食には、想像以上に多くのハードルがあることを実感したという。

ほかの家族にとっては何気ない一食でも、アレルギーのある家族にとっては、原材料を調べ、食べられるものを探し、時には選択肢そのものを諦めなければならない。そうした経験から生まれたのが、動物性素材に頼らず、さらに小麦も使わない、プラントベースでグルテンフリーのうどんという発想だった。

目指したのは、特定の人だけのための特別な料理ではない。食の条件が違っても、同じテーブルで、同じように食事を楽しめることだった。

米粉で「讃岐うどん」をつくるため、製麺所から立ち上げた

当初、村上さん自身が飲食店を運営する予定はなかった。

既存のうどん店と協力しながら、新しい商品を開発できればと考えていた。しかし、米粉で讃岐うどんらしい麺をつくることは、想像以上に難しかった。

小麦粉の麺は、グルテンによって弾力やつながりが生まれる。一方で米粉には、その性質がない。讃岐うどん特有の太さ、長さ、そしてコシを再現しようとすれば、従来の製法をそのまま応用するだけでは足りなかった。

専門家からも、実現は難しいと言われたという。
それでも村上さんは、妥協しなかった。クラウドファンディングも活用しながら、自ら製麺所を立ち上げ、製麺業者と研究を重ねた。

目標は、米粉を使った麺をつくることではない。香川で食べるうどんとして、きちんとおいしいこと。


試行錯誤の末、商品化にたどり着いたのは、2023年12月18日のオープン直前だった。
アレルギー対応だから。グルテンフリーだから。

そうした理由で品質を妥協するのではなく、讃岐うどんに親しんできた人にも向き合える一杯を目指したことが、「by age 18」の出発点になっている。

いりこを使わず、香川のだしを表現する

もう一つの課題は、だしだった。

香川のうどん文化にとって、いりこの風味は欠かせない存在だ。しかし、動物性素材を使わずにその奥行きをどう表現するかは、麺づくりと同じくらい難しいテーマだった。


「by age 18」では、シェフの協力も得ながら、植物性の素材でだしを設計。
いりこを使わなくても、讃岐うどんとして満足できる味わいを追求した。

植物性だから薄味でも仕方がない。魚介を使っていないから物足りなくても仕方がない。
そうした前提に寄りかからず、一杯の料理として成立させることにこだわった。

その背景には、プラントベースを「制約のある人のためだけの食事」にしたくないという思いがある。
食べられるものが限られているから選ぶのではなく、おいしいから選ぶ。
その順番を変えないことが、より多くの人に受け入れられるための条件だった。

「米粉うどんはうどんではない」という声の先に

もちろん、新しい挑戦がすぐに受け入れられたわけではない。
店のオープンを告知した際には、「米粉うどんはうどんではない」といった批判もあったという。

長く受け継がれてきた料理には、それぞれが思う「正しさ」がある。小麦を使うこと、いりこでだしを取ること。それらを外したときに、どこまでをうどんと呼べるのか。疑問を抱く人がいるのも自然なことだ。

けれど村上さんが問い直したかったのは、「本物かどうか」だけではない。
なぜ、その料理を食べられる人が限られているのか。
そして、もっと多くの人に届ける方法はないのか。

食文化を守ることは、これまでの形を一切変えないことだけではない。時代や暮らしの変化に合わせて、楽しめる人を増やしていくこともまた、文化を未来へつなぐための選択肢になる。


「by age 18」がつくる米粉のうどんは、讃岐うどんを否定するためのものではない。
その魅力に触れられる人を、もっと増やすための試みなのだ。

食のバリアだけでなく、空間のバリアも取り除く

店舗があるのは、村上さんの実家があった場所。瀬戸内の景色を生かした立地に、自然素材を取り入れた空間をつくった。


便利な場所に店を構えることよりも、そこへ足を運ぶ理由になる景色や体験を大切にしたという。
店内にはエレベーターを設置し、車椅子を利用する人にも配慮。食事の内容だけでなく、空間そのものも、できるだけ多様な人に開かれた場所になるよう設計されている。



提供するのは、うどんだけではない。



野菜を使った寿司、プラントベースのチーズ、スイーツなど、さまざまな料理や食体験を用意。料理人や専門家とも協力しながら、食の選択肢を広げている。

訪れる人の多くは、景色の美しさや料理の魅力を目当てにやってくる。そのなかには、アレルギーへの配慮やヴィーガン対応、宗教上の理由による食事制限をきっかけに来店する人もいる。


誰かのための「特別な店」として線を引くのではなく、誰もが行ってみたくなる店であること。
その自然な開かれ方こそが、「by age 18」の特徴なのかもしれない。
※食物アレルギーへの対応範囲や調理環境、宗教上の食事制限への対応については、来店前に店舗へご確認ください。

店名がつくる、「なぜ?」から始まる対話

「by age 18」という名前から、うどん店を思い浮かべる人は少ないかもしれない。
村上さんによれば、この店名はアインシュタインの言葉に由来しているという。
あえてわかりやすい名前にしなかったのは、「どういう意味なのだろう」と考えてもらうためだ。

なぜ、うどん店らしくない名前なのか。
なぜ、香川で米粉のうどんをつくるのか。
なぜ、植物性のだしにこだわるのか。

そうした疑問から、店の背景や考え方に触れてもらう。デザイナーとして培ってきた視点は、料理だけでなく、ブランドと人との出会い方にも生かされている。

わかりやすさだけを優先するのではなく、問いが生まれる余白を残す。
その余白が、食文化について考えるきっかけになっていく。

一杯の価格から、うどんの価値を見直す

香川のうどんには、手頃な価格で楽しめる食文化としての歴史がある。


そのなかで「by age 18」が設定しているのは、一杯1,300円前後という価格帯だ。
そこには、素材や開発にかかった費用を反映するだけでなく、うどんの価値そのものを見直したいという考えがある。

丁寧に素材を選び、製法を工夫し、これまで食べられなかった人にも届ける。そのために必要な手間や技術には、相応の価値がある。
安さだけで評価され続ければ、つくり手が挑戦を続けることは難しい。

一方で、料理の背景や体験まで含めて価値が伝われば、地域の食文化を支える人たちにとっても、新しい可能性が生まれる。
村上さんが目指しているのは、一店舗だけの成功ではない。植物性のメニューを取り入れる店が増えたり、うどんの価値を見直す動きが広がったりすることで、業界全体に変化が生まれることも視野に入れている。

讃岐うどんから、日本各地の郷土料理へ

村上さんの構想は、香川のうどんだけにとどまらない。
広島のお好み焼き、長崎ちゃんぽんなど、日本各地には、その土地を象徴する料理がある。けれど、使われている食材や調理方法によって、それらを味わえない人も少なくない。海外からの旅行者にとっても、日本の食文化に触れたいと思いながら、食事の制約が障壁になることがある。

そうした郷土料理を、植物性の素材を使った新しい形でも提案できれば、食文化との出会い方はもっと広がる。すでにマレーシアへの出店も進めており、今後は国内外を合わせて20店舗ほどを目指しているという。その土地ならではの料理を、限られた人だけのものにしない。「by age 18」が香川で始めた挑戦は、日本各地の食文化をより開かれたものにする構想へとつながっている。

文化を残すのは、「誰が、なぜつくるのか」という物語

デジタルで多くの情報が手に入る時代だからこそ、村上さんは、リアルな場所でしか得られない体験を大切にしている。景色を眺めながら料理を味わうこと。店に込められた思いを知ること。そして、その一杯がなぜ生まれたのかを理解すること。

「誰が、なぜやっているのか」。

その物語があるからこそ、人は料理だけでなく、その背景にある文化にも関心を持つ。息子のアレルギーをきっかけに始まった問いは、米粉の麺づくりへ、植物性のだしへ、そして日本の郷土料理をより多くの人に届ける構想へと広がった。

小麦を使わないことも、動物性素材を使わないことも、それ自体がゴールではない。目指しているのは、誰かが諦めていた一杯を、もっと多くの人と分かち合えるようにすること。瀬戸内の景色のなかで生まれた「by age 18」のうどんは、食文化を未来へつなぐための、新しい問いかけなのかもしれない。

米印製麺|オンラインストア
香川から生まれた、新しいプラントベースうどんを自宅でも。
▶ 商品の詳細・購入はこちら:https://komejirushi.base.shop/

https://byage18.com/

服部めぐみ

VEGAN’S LIFE編集長

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ヴィーガン検定1級/発酵食品マイスター。美容・食・サステナブル領域を専門とするエディター。生産者やブランドの哲学を伝える取材・編集を行う。「未来に残したい価値を、読者の心に残るコンテンツへ。」をテーマに、プラントベースを軸とした新しいライフスタイルを発信している。

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