食卓にフムスがある日常を、日本にも。dippy dippがレバノンの家庭の味を届けるまで
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ひよこ豆に、タヒニ(ごまのペースト)、オリーブオイル、レモン、にんにくなどを合わせ、なめらかなペースト状に仕上げる中東料理「フムス」。
ピタパンや野菜につけて食べるイメージがありますが、パンやクラッカー、揚げ物、パスタなど、実はさまざまな料理に合わせられる食品です。動物性原料を一切使わずに作られるため、ヴィーガンやベジタリアンの人々にも広く親しまれています。
海外ではスーパーの冷蔵棚にさまざまな種類のフムスが並び、家庭の冷蔵庫に常備されるほど身近な存在です。一方、日本ではまだ「中東料理店で食べるもの」「ヴィーガンのための特別な食品」という印象が強く、日常的な食品としては十分に知られていません。
そんなフムスを、日本の食卓にも根づかせたい。
その思いから生まれたのが、茨城県つくば市を拠点に展開するフムス専門ブランド「dippy dipp」です。
海外の冷蔵庫には、いつもフムスがあった
dippy dipp代表の宮沢佑季さんは、父親の仕事の関係で、幼少期から長年にわたり海外で生活してきました。カリフォルニアをはじめ、さまざまな国や地域で暮らすなかで、宮沢さんにとって自然と食べ物になっていたのがフムスでした。
dippy dipp代表 宮沢佑季さん
「海外では、フムスが冷蔵庫にいつも入っていました。日本でいうと、マヨネーズや醤油のような感覚です」
アメリカでは約20年前から、健康や美容への関心の高まり、ヴィーガン・ベジタリアンという食の選択肢の広がりなどを背景にフムスが浸透。スーパーには専用の冷蔵棚が設けられ、プレーンだけでなく、さまざまなフレーバーの商品が並んでいます。
2020年頃まで海外で暮らしていた宮沢さんは、日本へ帰国した際、身近なスーパーでフムスをほとんど見かけないことに、あらためて気づいたといいます。
「自分が食べたいのに、近所のスーパーで買えない。それなら、日本でも当たり前に買えるようにしたいと思いました」
この素朴な疑問と実感が、dippy dippを始めるきっかけになりました。
レバノンの家庭で受け継がれてきた味
事業を始めるにあたり、宮沢さんが頼ったのは、レバノン人の友人でした。
本場のフムスの作り方を知りたいと相談したところ、友人のお母さまから家庭で受け継がれてきたレシピを教えてもらえることになり、宮沢さんは実際にレバノンを訪れます。
そこで目にしたのは、庭にたくさん実ったレモンを丸ごと搾ったり、庭でできたオリーブから作った自家製オリーブオイルを使用したりと、身近な素材を使い、家庭でシンプルに作られていたフムスでした。特別な料理としてではなく、家族がいつもの食卓で囲むものとして作られるフムス。その味と文化を、日本でも伝えていきたいと考えました。
しかし、宮沢さんは食品業界で働いた経験がありませんでした。商品として販売するためには、製造環境や食品表示、衛生管理など、家庭料理とは異なる多くのルールをクリアしなければなりません。一つひとつ調べ、周囲の力も借りながら、レバノンで教わった味を商品として届けるための準備を進めていきました。
あえてクミンを入れない。日本で愛される味への工夫
レバノンで教わった味を大切にしながらも、dippy dippでは、日本でより多くの人に親しんでもらうための工夫を加えています。その一つが、多くのフムスのレシピに使われるクミンを、あえて入れないことです。クミンは中東料理らしい風味を生み出す一方、スパイスに慣れていない人にとっては、好みが分かれることがあります。
「ヴィーガンや中東料理が好きな人だけではなく、子どもから大人まで、できるだけ多くの人に食べてもらいたいと思いました」
何度も試作を重ねながら、素材それぞれの持ち味と全体のバランスを丁寧に調整。スパイスの印象に頼るのではなく、ひよこ豆本来の味わいと、爽やかな後味を感じられる、dippy dippならではの味わいに仕上げました。 
原材料には有機ひよこ豆や有機オリーブオイルなどを使用し、化学調味料・保存料・着色料は不使用。動物性原料も使わず、素材の味を生かしたシンプルな商品づくりを続けています。現在は、ベーシックな「オリジナル」のほか、「バジル」、季節ごとに変わる限定フレーバーを展開しています。
売る場所がないなら、知ってもらう場所からつくる
商品が完成しても、日本ではまだフムスそのものの認知度が高くありません。一般的なスーパーマーケットに並べるだけでは、どのような食品なのか、どのように食べるのかが伝わりにくいという課題がありました。
そこで宮沢さんが注目したのが、生産者と消費者が直接言葉を交わせるファーマーズマーケットです。
まずはつくば市で、知人とともに市役所へ相談し、「ビレッジマーケットつくば」を立ち上げました。地域の公園などを巡回しながら毎週日曜日に開催し、約5年間にわたって出店を継続。フムスの食べ方や味を直接伝えながら、少しずつファンを増やしていきました。
その実績を重ねた後、青山ファーマーズマーケット や太陽のマルシェ等都内で開催されているマーケットへの出店も実現。現在は月4回程度のペースで出店しています。
冷蔵商品のため、外出時間が長くなる夏場は出店を控え、オンライン販売へ案内するなど、季節に合わせた販売方法も工夫しています。
また、東京や名古屋で開催されるヴィーガングルメ祭りにも出店。ヴィーガンやベジタリアンのための食品として支持される一方で、近年は食の主義にかかわらず、純粋に「おいしいから」とフムスを選ぶ人が増えているそうです。
販売先もファーマーズマーケットとオンラインショップを中心に、パン店や自然食品スーパー、カフェなどへ少しずつ広がっています。
野菜だけではない、自由なフムスの楽しみ方
初めてフムスを食べるなら、宮沢さんのおすすめは、パプリカなどのみずみずしい野菜スティックやクラッカー、バゲットと合わせること。
野菜やパンにつけるだけで食べられるため、朝食や軽食にはもちろん、食事の前菜やおつまみにも取り入れられます。さらに、揚げ物にタルタルソースの代わりとして添えたり、BBQなどでの焼いたお野菜に添えたり、サラダのドレッシングの代わりとしてかけたり、パスタソースとして使ったりするのもおすすめです。
dippy dippのお客さまからは、キンパの具材として使う食べ方も寄せられています。ごはんや海苔とも相性がよく、発想次第で和食や韓国料理にも取り入れられます。
「フムスは、どんな食材にも合わせられる奇跡の食べ物だと思っています。ヴィーガンやベジタリアンに限らず、すべての人に楽しんでもらいたいです」
ひよこ豆をベースにしたフムスは、特定の食のスタイルに合わせるためだけの代替食品ではありません。いつもの料理に加えることで、食卓の楽しみ方を広げてくれる存在です。
特別な食品から、冷蔵庫の定番へ
パリを訪れた際、宮沢さんは、20代ほどの若者たちがバゲットとフムスを持ち歩き、ごく自然に食べている光景を目にしました。それは、フムスが健康や美容を意識した特別な食品ではなく、暮らしの中に溶け込んでいることを感じさせる光景でした。
「スムージーやコールドプレスジュースも、最初は高級で、セレブが選ぶものというイメージがありました。でも今では、もっと身近なものになっています。フムスも同じように、日常の食品にしていきたいです」
dippy dippを始めた原点は、「自分がスーパーでフムスを買いたい」という、ごく日常的な思いでした。ファーマーズマーケットで一人ひとりに食べ方を伝え、オンラインや店舗へと少しずつ販売場所を広げながら、宮沢さんが目指しているのは、どこでも気軽にフムスを手に取れる未来です。
冷蔵庫を開ければフムスがあり、パンや野菜、料理に自由に添えて楽しむ。
dippy dippが届けようとしているのは、新しい食品だけではなく、日本の食卓に加わる、もう一つの習慣なのかもしれません。
https://www.dippydipp.com/

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