カカオから生まれたデニム。その一着に込められた、3者の視点と循環のかたち

公開日: 2026.4.28

インタビュー

豆知識

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CACAO DENIM COLLECTION」は「シンゾーン」25周年記念プロジェクトのひとつ


「こちらは、チョコレートにならなかったカカオなんです」
手のひらにのせられたのは、カカオの種皮。これまで十分に活用されてこなかったこの素材が、いま“デニム”として新しい価値をまとい始めています。

今回、この取り組みの開発背景について話を伺ったのは、
株式会社明治 コンフェクショナリー事業本部カカオ開発部の桧垣氏、
株式会社ドアーズ 代表取締役社長の鳥谷氏、
そして株式会社シンゾーン クリエイティブ部の浜﨑氏の3名。

食品、開発、ファッション。
異なる領域の視点が重なり合うことで、このプロジェクトはかたちになりました。

未活用カカオ資源を、価値に変える

「チョコレートの製造で使われるのは種子であるカカオ豆が主な原料として使われます。一方で、そのカカオ豆を覆う種皮(カカオハスク)は、これまで活用の幅が限られていたのが現状です」

株式会社明治 コンフェクショナリー事業本部 桧垣氏


そう話すのは、株式会社 明治の桧垣氏。コンフェクショナリー事業本部に所属し、農学博士としての専門的な視点を活かしながら、カカオの新しい価値創出をテーマに、研究・開発から事業化まで幅広く取り組んでいます。

「私たちは、長年カカオに向き合ってきた企業として、こうした十分に活かされてこなかった未活用カカオ資源のひとつである種皮(カカオハスク)を、新たな価値につなげられないかと考えてきました。そこから、“食べる”ことにとどまらず、カカオの可能性をより広く捉える取り組みが始まったのです」(明治 桧垣氏)

カカオを“食品”としてではなく、“資源”として捉える視点。その発想が、このプロジェクトの出発点となりました。

カカオを“繊維にする”という挑戦

カカオを繊維にする技術について教えてください。

「カカオは繊維成分を含む植物ですが、そのままでは糸として利用することはできません。そこでまず、カカオ豆から取り除いた種皮(カカオハスク)を、できるだけ細かく砕く工程が必要になります。

じつはこの工程がとても難しく、細かさにばらつきがあると、次の工程で素材をきれいに加工することができません。安定した素材にするためには、大きさをそろえて均一にすることが重要になります。

細かく砕いた種皮(カカオハスク)は、植物由来の原料と組み合わせることで、新しい素材として生まれ変わります。それを糸状に加工し、生地づくりに使える繊維にしていきます。最終的に出来上がる繊維の太さは、人の髪の毛よりもずっと細いレベル。設計の感覚としては、チョコレートの口どけを調整するのと近い、非常に繊細な領域だと感じています。

」(明治 桧垣氏)

一見シンプルに見えるデニムの裏側には、こうした見えない試行錯誤が積み重なっています。

カカオデニムのタグにも種皮(カカオハスク)を使用しており、ほのかにカカオを感じさせる仕上がり

なぜ“デニム”という選択だったのか

デニムという発想はどこから生まれたのでしょうか。

「2024年には、まず種皮(カカオハスク)を使って生地を開発し、Tシャツとして形にしました。その取り組みを通じて、未活用カカオ資源を素材として展開していく可能性が見えてきました。

では、どのようなアイテムであれば、多くの人の日常に自然に溶け込み、長く使われていくのか。その問いを考えていく中で、ひとつの選択肢として浮かび上がったのが、デニムでした。デニムは世代や地域を問わず、幅広い人々の暮らしの中で親しまれてきたアイテムです。

さらに、カカオの産地に目を向けると、農園などの作業現場でジーンズを着用している人が少なくないことにも気づきました。もし、未活用カカオ資源を使ったデニムが市場で受け入れられ、流通し、価値を生み出していくことができれば、その広がりを通じて、カカオ産地国の支援につなげていくこともできるのではないか——。

そんな価値の循環を、デニムという身近なプロダクトを通じて描けるのではないかと考えたことが、カカオデニムの取り組みに向けた最初の一歩となりました」(明治 桧垣氏)


単なる素材開発にとどまらず、「ビジネスとして循環させる」という視点。そこに、このプロジェクトの本質があります。

素材をプロダクトへと昇華させる、開発の視点

そのアイデアを実際のプロダクトへと落とし込んだのが、株式会社ドアーズ 代表取締役社長の鳥谷氏です。デニム業界で30年蓄えた知識をもとに、素材開発から製品化までを担う立場として、カカオという前例の少ない素材と向き合ってきました。

株式会社ドアーズ 代表取締役社長の鳥谷氏


「単純に混ぜればいいというものではなく、素材として成立させるまでにはかなり試行錯誤が必要でした」(ドアーズ 鳥谷氏)
未知の素材を扱う中で、強度や加工方法など、多くの技術的課題を乗り越えてきたといいます。

デニムにするにはどんな課題がありましたか?

「染色工程で、一部糸が切れてしまうというアクシデントがありました。もともと廃棄を減らし、資源活用を目的としたプロジェクトだったため、使用できない糸の廃棄物が出たことはとても悔しい思いでした。ただ、この経験があったことで今後の安定した生産の糸口になり、進化につなげることができました。また、カカオ由来の繊維はそのままだとインディゴに染まらないため、糸の構造を工夫しました。中心にカカオ繊維を置き、外側を綿で覆うことで従来のデニム同様にインディゴの色落ち、経年劣化が楽しむことができます。さらにカカオ繊維を使っていることで、製品全体の軽量化、速乾性、柔らかい穿き心地に仕上がったのが最大の特徴です」(ドアーズ 鳥谷氏)

“選ばれる服”にするためのクリエイティブ

その素材を日常に落とし込み、“選ばれる一着”へと仕上げたのが、株式会社シンゾーンのクリエイティブ部 生産管理の濵﨑氏です。

株式会社シンゾーンのクリエイティブ部 生産管理の濵﨑氏


カカオデニムを販売するアパレルブランド、シンゾーンはデニムのサイズ展開やバリエーションが豊富なことに定評があり、「自分に似合う1本がかならず見つかる」と人気のブランド。

今回カカオデニム生地の特性をいかし、着用しやすく、美しいシルエットのデニムが実現しました。

サステナブルではあるけれど、環境配慮という文脈に頼るのではなく、あくまでファッションとして成立させること。そのために重視したのは、シルエットや着心地、そして日常での取り入れやすさでした。


「“日常で履きたくなるデニム”を大切にしました。シルエットはユニセックスで着用できる設計にしています。
ジーンズはどなたにも取り入れていただきやすいレギュラーストレートを採用し、見た目の美しさはもちろん、コットンの心地よさとカカオ繊維ならではの軽やかさを両立しています。
着るほどに身体になじみ、心地よさを感じていただけるはずです。また、ボタンには軽量でリサイクル可能な100%アルミ素材を使用し、一般的な真鍮ボタンと比べて軽量化を実現しています。
デニムジャケットは、やや身幅が広いボックスシルエットを採用し、とにかく軽いとご好評いただいています。ミニスカートとのセットアップでのコーディネートもおすすめです」(シンゾーン 浜﨑氏)

こうした設計の積み重ねが、「サステナブルである前に、まず着たいと思える服」を成立させています。

https://shinzone.com/collections/cacao-denim-collection?srsltid=AfmBOoq4o3IwfA4WaRkle0IEhN6zykSVS8fOEqd5LlxGvbyh5j64LpDo

最後に

明治といえばチョコレートを思い浮かべる方が多いかもしれません。実際、チョコレートは広く知られている一方で、その原料であるカカオという植物そのものについては、まだ認知が高いとは言えない状況です。

明治は、カカオという植物を食としてだけでなく、素材としてどのように活かしていけるかという視点で研究・開発に取り組んできました。カカオデニムは、そうした問いに対するひとつの答えでもあります。


十分に活用されてこなかった未活用カカオ資源が、素材として生まれ変わり、誰かの日常に寄り添う一着になる。その裏側には、異なる領域で向き合う3名のプロフェッショナルの視点と挑戦がありました。ファッションは、自分を表現するだけでなく、社会とつながる手段でもあります。
次に選ぶ一着の背景に目を向けること。それが、これからのスタンダードになっていくのかもしれません。

鵜飼恭子

&kitto編集長

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美容誌MAQUIAの編集者を経て、美容ジャーナリスト。10代に正しい美容を早期に伝えるイベント「TBZティーンビューティゼミ」主催。香り診断(嗅覚反応分析士)で心身バランスを可視化するサービスやセミナーを企業や大学、医療機関で行う。子どもの頃は帰宅してまず「かつおぶし削り」のお手伝い。お菓子や味噌など食をはじめ、衣服やインテリアなども母の手づくりで育つ。その反動で20代の食生活は乱れるが、出産を機に見直す。日本フェムテックマイスター協会評議員、嗅覚反応分析アンバサダー、MBA(経営管理修士)

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