日本料理は植物だけで成立するのか?箱根ヴィーガン懐石から考える和食の未来
公開日: 2026.2.12
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日本料理は、植物だけで成立するのでしょうか。 私たちが「和食」と聞いて思い浮かべる要素の多くは、海や動物性食材と結びついています。しかし今、温泉地・箱根で、その常識を静かに覆す取り組みが始まっています。
ヴィーガン懐石料理イメージ
動物性食材を一切使わない「ヴィーガン懐石」。それは単なる食事対応ではなく、日本料理の本質を問い直す試みです。
箱根で始まった静かな挑戦
この取り組みを進めているのは、神奈川県 箱根で旅館5店舗・飲食店3店舗を運営する「株式会社金乃竹」。2025年12月より動物性食材を使用しない「ヴィーガン懐石料理」。本料理は、異なる魅力を持つ「金乃竹 仙石原」「金乃竹 塔ノ澤」「松坂屋本店」の3施設にて提供しております。


近年、箱根では訪日外国人の増加とともに、宗教・思想・健康観の違いによる食の多様化が進んでいます。しかし、日本料理には一見すると気づきにくい動物由来の要素が存在します。例えば、鰹出汁、魚醤、ゼラチン、動物由来の調味料など。表面上は野菜料理であっても、完全な植物性ではないことが少なくありません。その前提を一度すべて外し、ゼロから懐石を組み立て直すこと、それが、箱根ヴィーガン懐石の挑戦です。
和食の核は、本当に「魚」なのか
懐石料理の味の土台は出汁です。鰹節を使わずに和食は成立するのでしょうか。今回の取り組みにあたり、料理人たちは、その可能性を植物の中に見いだしていきました。「昆布のグルタミン酸」「干し椎茸のグアニル酸」「味噌や麹などの発酵の旨味」「野菜そのものの甘みと香り」など。
これらを丁寧に重ね合わせることで、動物性に頼ることなく、奥行きのある味わいが立ち上がります。そして、味はより澄み、輪郭は研ぎ澄まされていきます。重たさが取り払われたとき、素材の本質がゆっくりと姿を現してくるでしょう。
日本料理の本質は「引き算」にある
西洋料理が足し算だとすれば、日本料理は引き算の美学に支えられています。素材を重ねすぎず、強い調味料で支配することなく、自然の輪郭を損なわない——植物だけで構築された懐石は、この哲学をより純度の高いかたちで体現しています。日本には古くから精進料理という文化があり、動物性食材に頼らずとも豊かな味わいと精神性を表現してきました。ヴィーガン懐石は決して異端ではなく、むしろ和食の源流へと静かに立ち返る動きと言えるのではないでしょうか。
「制限」ではなく「創造性」

ヴィーガンという言葉には、どこか“制限”のニュアンスが付きまといます。しかし料理人の視点では、それは創造性の出発点です。
肉が使えないからこそ、野菜の火入れを突き詰める。魚が使えないからこそ、発酵の可能性を広げる。ごまかしが効かない世界だからこそ、技術が際立つ。植物性の懐石は、料理人の力量をより明確に映し出す料理でもあります。
温泉と植物食の親和性
箱根という土地もまた、この挑戦を後押ししています。温泉で身体をゆるめ、森林の空気に呼吸を整え、植物中心の食事で内側から満たしていく——それは決して偶然ではありません。世界的にウェルネスツーリズムが広がる今、“重くない食事”は重要な価値となりつつあり、刺激よりも調和、過剰よりも余白が求められています。ヴィーガン懐石は、こうした体験をひとつの流れとして結び、温泉という時間を静かに満たしていく存在なのかもしれません。
多様性の時代のホスピタリティ
もうひとつ重要なのは、「誰もが同じ食卓を囲める」という視点です。宗教や思想、アレルギーによって料理が分断されるのではなく、最初から全員が安心して楽しめる料理を設計する。それは、未来型のホスピタリティです。特別対応ではなく、標準設計。
箱根ヴィーガン懐石は、観光地の在り方そのものをアップデートしています。
結論:日本料理は植物だけで成立するのか?
その答えは明確です。成立する。ただしそれは魚を排除することではなく、季節を映し、素材を尊重し、自然と調和するという和食の本質をあらためて見つめ直すことにほかなりません。そうした思想は植物と極めて親和性が高く、動物性食材を手放したとき、日本料理はむしろその輪郭をこれまで以上に鮮明にしていく可能性を秘めていると思います。
ヴィーガン懐石は日本料理を弱めるものではなく、その可能性を静かに押し広げる挑戦であり、伝統とは守るだけでなく時代に合わせて更新されることで生き続けるものだと教えてくれます。箱根で始まったこの動きは、やがて日本各地、そして世界へと広がっていくのかもしれません——日本料理はどこまで自由になれるのか、その答えを私たちは今、まさに目撃し始めています。
金乃竹の環境への取り組み
金乃竹グループでは、環境負荷の軽減と日本文化の価値継承を目的に、日々の宿泊体験の中で持続可能な取り組みを行っています。
客室には竹製歯ブラシやヘアブラシを採用し、Spaでは環境に配慮したナチュラル素材を使用しています。鉄板焼「禅」では、野菜の皮や石づきなど通常は廃棄されがちな食材をスープづくりに活用するなど、フードロス削減にも取り組んでいます。こうした一連の取り組みを通じて、自然や食材を大切にする日本文化の精神を、滞在を通じて伝えています。
金乃竹リゾートについて
金乃竹リゾートは、1947年に神奈川県箱根町仙石原で最初の温泉旅館を開業いたしました。1999年には、当時ではまだ珍しい貸切露天風呂による「非日常」を通して、温泉旅館の新たな楽しみ方と価値を創出してまいりました。現在は、5つの旅館施設と3つの飲食店の事業を展開するとともに、新規事業であるクラフトビールなどの多角化や、これまでのターゲットを変えた新たな旅館施設の開業など、ポートフォリオの構築を進めています。これにより、外部環境の変化に対応して持続的な成長を目指します。
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