【広島】創業129年。「牛乳をつくらない乳業メーカー」が選んだ、“おなかを育てる”という新しい挑戦

公開日: 2026.8.21

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「乳業メーカーなのに、牛乳をつくらない。」
その言葉を聞いたとき、思わず理由を知りたくなりました。
1897年創業、129年の歴史を持つ野村乳業は、かつて牛乳やヨーグルトを製造してきた老舗乳業メーカーです。しかし現在、同社が届けているのは植物乳酸菌飲料「マイ・フローラ」と、「おなかを育てる」という新しい価値観でした。

なぜ長年続けてきた事業を手放し、一つの商品に経営資源を集中するという決断をしたのか。
そこには、価格競争ではなく価値を届けるという経営哲学と、日本の発酵文化を未来へつなぎたいという強い想いがありました。


今回は、マーケティング部 部長・山川千秋さんへのインタビューを通して、創業129年の企業がたどり着いた「新しい乳業のかたち」をお届けします。

価格競争ではなく、「価値」で選ばれる会社へ

1897年(明治30年)、広島県府中町で創業した野村乳業は、牧場経営からスタートし、牛乳やヨーグルト、プリンなどを製造する乳業メーカーとして歩んできました。長年にわたり地域の食を支えてきた同社ですが、1990年代以降、乳業業界は大きな転換期を迎えます。
牛乳やヨーグルトが日常的な食品として定着する一方、市場では価格競争が激化。「より安く、より大量に」が求められる時代になっていきました。そんな中、野村乳業が選んだのは、価格競争に参加することではありませんでした。

「価格ではなく、価値で選ばれる会社になる。」

この考えのもと、約20年前から発酵技術と植物乳酸菌の研究へ経営資源を集中。牛乳を幅広く製造するメーカーから、「おなかを育てる」という新たな価値を届ける会社へと舵を切りました。

商品を増やすのではなく、「一品」を磨くという発想

食品業界では、新商品を次々に投入し、売上を拡大していくことが一般的です。しかし野村乳業は、その逆の道を選びました。商品数を増やすのではなく、本当に届けたい一つの商品に、人材や研究開発、設備投資を集中する。

この考え方を、同社では「イッピン(一品・逸品)戦略」と呼んでいます。
「一品」とは、商品を絞り込むこと。
「逸品」とは、その一品を他にはない価値を持つ商品へ育てること。


大量生産・大量販売ではなく、長く愛される一品を育てる。そのために植物乳酸菌の研究や品質向上、ヒト臨床試験などへ継続的に投資を続けています。


「たくさんの商品を売る会社」ではなく、「本当に価値のある商品を届ける会社」。
この思想こそが、現在の野村乳業の原点となっています。

「売れるはずの商品」が、自社ブランドでは売れなかった

その転換期を最前線で経験したのが、マーケティング部 部長の山川千秋さんです。
山川さんは以前、通信販売会社で植物乳酸菌飲料の商品開発に携わっていました。
その商品は多くの愛用者に支持され、「便秘が改善した」「旅行へ行けるようになった」など、人生が変わったという声も数多く届いていました。山川さん自身も、その価値を強く実感していた一人です。
だからこそ、野村乳業へ入社した当初は、「この商品なら必ず売れる」と確信していました。
しかし現実は違いました。
通販では支持されていた商品が、自社ブランドとして販売すると、思うように売れなかったのです。
その理由を振り返り、山川さんはこう話します。


「お客様から見ると、乳業メーカーが作っている商品の一つにしか見えていなかったんです。」
会社としては、牛乳やヨーグルトの製造を縮小し、この商品に未来を託すほどの覚悟を持っていました。

しかし、その背景にある想いや企業の方向性は、お客様には十分伝わっていませんでした。
山川さんは、この経験から一つの答えにたどり着きます。
本当に伝えるべきなのは、商品の機能ではなく、「なぜ、この商品をつくるのか」という企業の想いだったのです。

「おなかを育てる会社」へ。ブランドをゼロから見直した2019年

この経験をきっかけに、野村乳業は2019年、ブランドそのものを見直します。
新たに掲げたコンセプトは、「おなかを育てる。」というシンプルな言葉でした。
それは商品を売るためのキャッチコピーではありません。
毎日植物に水をあげるように、自分の腸内環境を少しずつ育てていくという、新しい健康観を表した言葉です。


ブランド名「マイ・フローラ」にも、その想いが込められています。腸内細菌の集まりは、お花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。「マイ・フローラ」とは、自分だけのお花畑。一人ひとり異なる腸内環境を、自分自身で大切に育ててほしいという願いが込められています。

「腸」に救われた経験が、今の仕事につながっている

ブランドの想いを語る山川さんの言葉には、不思議な説得力があります。それは、山川さん自身が「お客様」だった経験を持っているからです。


20代の頃、山川さんは長年、お腹の不調に悩まされていました。電車に乗ると突然腹痛に襲われる。途中下車を繰り返し、旅行へ行くことも不安になる。
病院で検査を受けても大きな異常は見つからず、原因が分からないまま日々を過ごしていたといいます。
そんな時に出会ったのが、植物乳酸菌でした。
もちろん、一つの商品だけですべてが変わるわけではありません。食事や睡眠、生活習慣など、健康にはさまざまな要素が関わります。
それでも、自分の腸と向き合うことを続けたことで、少しずつ生活が変わっていったと山川さんは振り返ります。さらに印象的だったのは、お客様から届く声でした。

「便秘薬を手放せるようになりました。」
「外出することへの不安が減りました。」
「旅行を楽しめるようになりました。」

単なる商品の感想ではなく、その人の暮らしそのものが変わっていく様子を目の当たりにしたことで、「この商品は届け続けなければならない」という想いが強くなったといいます。
当時勤めていた会社で商品の販売終了が決まった際には、その想いから野村乳業へ転職することを決意しました。
「商品を売りたい」のではなく、「必要としている人へ届けたい」。その想いが、現在のブランドづくりの原点になっています。

腸活ブームのその先へ

2019年にブランドを刷新した翌年、新型コロナウイルスの流行によって、「免疫」という言葉が日常的に語られるようになりました。
その中で、「腸」と「健康」の関係にも大きな注目が集まります。


以前は、お腹に悩みを抱える人だけのテーマだった「腸活」が、多くの人にとって身近な健康習慣へと変わっていきました。
一方で、市場には数え切れないほどの腸活商品が並ぶようになります。
乳酸菌、ビフィズス菌、発酵食品、食物繊維──。

選択肢が増えたからこそ、「何を選べばいいのかわからない」という声も少なくありません。
そんな時代だからこそ、野村乳業が伝えたいのは、商品の特徴だけではありません。
「私たちが大切にしているのは、商品を知っていただくこと以上に、腸内フローラという考え方を知っていただくことです。」
山川さんのこの言葉からは、商品を販売する会社というよりも、健康について考えるきっかけを届ける会社でありたいという姿勢が伝わってきました。

新工場に込められた、未来への決意

2023年、広島空港に隣接する場所に「マイ・フローラ プラント」が完成しました。


この工場は、植物乳酸菌飲料の製造を中心とした新たな拠点です。
野村乳業は2011年に牛乳やヨーグルトの製造ラインを停止し、「量をつくる工場」から、「価値を届ける工場」へと大きく舵を切りました。

大量生産を目指すのではなく、本当に届けたい商品に集中する。
その考え方を形にしたのが、この新工場です。



研究開発、品質管理、製造までを一貫して行う環境を整え、「おなかを育てる」というブランドコンセプトを、これから先の未来へつないでいく拠点として、新たなスタートを切りました。

単なる設備投資ではなく、企業としての覚悟を形にした場所。
工場の話を伺いながら、そんな印象を受けました。

「商品より先に、腸内フローラを知ってほしい」

取材の終盤、山川さんが何度も口にしていた言葉があります。
「私たちは、商品を知っていただく前に、腸内フローラという考え方を知っていただきたいと思っています。」
その言葉を聞いたとき、この会社が本当に届けたいものが見えた気がしました。


企業である以上、商品を販売することは欠かせません。
しかし、その前に「知識」を届けたい。
自分の体を知るきっかけを届けたい。
そんな想いをブランドの中心に据えている企業は、決して多くありません。

野村乳業が伝えようとしているのは、「何を飲むか」ということだけではなく、「自分の体とどう向き合うか」ということ。
毎日植物に水をあげるように、少しずつ腸内環境を育てていく。
健康は、特別な一日でつくられるものではなく、日々の積み重ねの中で育まれていくものだという考え方です。
「マイ・フローラ」というブランド名にも、その想いが込められています。
腸内細菌の集まりは、お花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。
一人ひとり違う、自分だけのお花畑。
その花を育てるように、自分自身の健康とも向き合ってほしい――。
ブランド名には、そんな願いが込められていました。

Editor's Note

「牛乳をつくらない乳業メーカー」。
取材前は、そのインパクトのある言葉に惹かれていました。
しかし、取材を終えて心に残ったのは、その事実以上に、「何を残し、何を変えるのか」を問い続ける企業の姿勢でした。

創業129年という歴史があるからこそ、過去を守り続ける選択もあったはずです。それでも野村乳業は、時代の変化と向き合い、自らの存在意義を見つめ直し、「おなかを育てる会社」という新たな道を選びました。

商品数を増やすのではなく、一つの商品を磨き続けること。
流行を追いかけるのではなく、発酵の知恵や植物乳酸菌の可能性を探究し続けること。
そして、商品を売ること以上に、「健康について考えるきっかけ」を届けようとしていること。
その姿勢から感じたのは、「企業の覚悟」でした。

&kittoでは、プラントベースを単なる食の選択肢ではなく、「未来の暮らしを豊かにする選択」として発信しています。野村乳業が取り組む植物乳酸菌の研究もまた、その延長線上にあるものではないでしょうか。

発酵という、日本の食文化の中で育まれてきた知恵を、現代のライフスタイルに合わせて受け継いでいくこと。そして、一人ひとりが自分の体と向き合うきっかけを届けること。その積み重ねが、これからの健康づくりや食文化を支える新しいスタンダードになっていくのかもしれません。

129年の歴史を持つ老舗企業がたどり着いた答えは、「牛乳をつくらないこと」ではありませんでした。
「おなかを育てる」という文化を、未来へ育てていくこと。その挑戦は、これからも続いていきます。

https://www.nomura-milk.co.jp/

服部めぐみ

VEGAN’S LIFE編集長

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ヴィーガン検定1級/発酵食品マイスター。美容・食・サステナブル領域を専門とするエディター。生産者やブランドの哲学を伝える取材・編集を行う。「未来に残したい価値を、読者の心に残るコンテンツへ。」をテーマに、プラントベースを軸とした新しいライフスタイルを発信している。

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